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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)125号 判決

全事件原告 永野衆五郎

昭和四七年(行ウ)第一二五号事件および昭和四八年第(行ウ)第一七八号事件被告 司法試験管理委員会

右代表者委員長 神谷尚男

全事件被告 国

右代表者法務大臣 中村梅吉

右被告両名指定代理人 矢崎秀一

〈ほか四名〉

主文

一  被告司法試験管理委員会がした昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の合否の判定の取消しを求める原告の訴えのうち、昭和四七年度司法試験第二次試験短答式試験における原告に対する不合格の判定の取消しを求める部分の請求を棄却し、その余の部分の訴えを却下する。

二  前項の各年度の各司法試験第二次試験の合否の判定の無効確認を求める原告の予備的訴えのうち、昭和四三年度および昭和四五年度の各司法試験第二次試験論文式試験ならびに昭和四四年度および昭和四六年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験短答式試験における原告に対する不合格の判定の無効確認を求める部分の請求を棄却し、その余の部分の訴えを却下する。

三  被告司法試験管理委員会に対する原告のその余の訴えを却下する。

四  被告国に対する原告の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立て

一  昭和四七年(行ウ)第一二五号事件について

(一)  原告

1 被告司法試験管理委員会(以下、被告委員会という。)がした昭和四三年度ないし昭和四七年度の各司法試験第二次試験の合否の判定を取り消す。

2 仮に前項の請求が認められないときは、前項の合否の判定が無効であることを確認する。

3 被告委員会は昭和四三年度ないし昭和四七年度の各司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なえ。

4 被告国は原告に対し五〇万円を支払え。

5 訴訟費用は被告らの負担とする。

6 第4項につき仮執行の宣言

(二)  被告委員会

1 本案前の申立て

(1) 原告の1ないし3の訴えをいずれも却下する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

2 本案の申立て

(1) 原告の1ないし3の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三)  被告国

1 原告の4の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

二  昭和四七年(ワ)第九、三三七号事件について

(一)  原告

1 被告国は原告に対し三五万円を支払え。

2 被告国は昭和四三年度ないし昭和四七年度の各司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なえ。

3 訴訟費用は被告国の負担とする。

4 第1項につき仮執行の宣言

(二)  被告国

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

三  昭和四八年(行ウ)第一七八号事件について

(一)  原告

1 被告委員会がした昭和四八年度の司法試験第二次試験の合否の判定を取り消す。

2 仮に前項の請求が認められないときは、前項の合否の判定が無効であることを確認する。

3 被告委員会は昭和四八年度の司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なえ。

4 被告国は原告に対し三五万円を支払え。

5 被告国は昭和四八年度の司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なえ。

6 訴訟費用は被告らの負担とする。

7 第4項につき仮執行の宣言

(二)  被告委員会

1 本案前の申立て

(1) 原告の1ないし3の訴えをいずれも却下する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

2 本案の申立て

(1) 原告の1ないし3の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三)  被告国

1 原告の4および5の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は被告委員会が昭和四三年度ないし昭和四八年度において実施した各司法試験第二次試験の受験者であった。

(二)  司法試験第二次試験は資格試験であり、被告委員会が行なう合否の判定は行政法学上のいわゆる確認行為たる性質を有する行政処分であって、それ故覊束裁量行為である。他面、受験者は受験料一、〇〇〇円を支払っているのであるから、司法試験第二次試験は被告国と受験者との間の準委任契約類似の有償双務債権契約たる性質をももつものと解すべきである。

(三)  ところで、被告委員会は、昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の合否の判定をするにあたり、受験者の年令、性別、社会的身分、出身大学、出身地および受験回数等により差別をしたが、これは憲法一三条、一四条、二二条、二六条および三一条ならびに民法九〇条に違反し、右合否の判定は違法・無効である。

(四)  被告委員会が前項に述べたような違法・無効な合否の判定をしたことについては、被告委員会の委員に少なくとも重大な過失がある。

(五)  原告は、昭和四三年度ないし昭和四七年度の各司法試験第二次試験において被告委員会がした違法・無効な合否の判定により少なくとも八五万円以上の精神的・物質的損害を受け、また、昭和四八年度の司法試験第二次試験において被告委員会がした違法・無効な合否の判定により少なくとも三五万円以上の精神的・物質的損害を受けた。

(六)  昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の合否の判定が違法・無効であることは前記のとおりであるから、被告委員会は適法かつ有効な合否の判定をやり直す公法上の義務を負うとともに、他面、被告国は前記準委任契約類似の有償双務債権契約の本旨に従い適法かつ有効な合否の判定をやり直す債務を負っているといわなければならない。

(七)  そこで、被告委員会に対し同被告がした昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の合否の判定の取消しを求め、その取消請求が認められない場合には予備的に右合否の判定の無効確認を求めるとともに、右各司法試験第二次試験について適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求め(いわゆる無名抗告訴訟の一種として)、被告国に対しては損害賠償の一部として一二〇万円(昭和四三年度ないし昭和四七年度分として八五万円、昭和四八年度分として三五万円、一次的には国家賠償法一条にもとづき、二次的には民法四一五条にもとづき、三次的には同法七〇九条にもとづき)の支払いを求めるとともに、準委任契約類似の有償双務債権契約にもとづく債務の履行として昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める。

二  被告委員会の本案前の主張

(一)  司法試験第二次試験は、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することをもってその目的とし」ており(司法試験法五条一項)、このような行為は、その性質上、その試験実施機関の最終判断に委せられるべきものであって、裁判所がその判断の当否を審査し具体的に法令を適用して、その争いを解決調整できるものとはいえない。すなわち、司法試験第二次試験の合否の判定の取消しおよび無効確認を求める訴え(原告の前記申立てのうち一(一)12、三(一)12)は、裁判所法三条にいう法律上の争訟にあたらず、不適法である。

(二)  昭和四三年度の司法試験第二次試験の合格者の発表は同年九月三〇日に、昭和四四年度のそれは同年九月三〇日に、昭和四五年度のそれは同年九月三〇日に、昭和四六年度のそれは同年一〇月一日に、また、昭和四八年度の司法試験第二次試験短答式試験の合格者の発表は同年五月二九日にそれぞれ行なわれており、原告はそれぞれ遅くともその発表の数日後には(昭和四八年度の司法試験第二次試験短答式試験の合格者の発表については遅くとも同年六月中には)その発表の事実を知ったものと推認される。

しかるに、昭和四三年度ないし昭和四六年度の各司法試験第二次試験の合否の判定の取消しを求める訴え(前記原告の申立て一(一)1のうち昭和四三年度ないし昭和四六年度分)は昭和四七年八月二五日に提起され、昭和四八年度の司法試験第二次試験の合否の判定の取消しを求める訴え(前記原告の申立て三(一)1)は昭和四八年一二月二七日に提起されているので、昭和四三年度ないし昭和四五年度については処分の日から一年を経過した後であり(行政事件訴訟法一四条三項)、昭和四六年度および昭和四八年度については処分のあったことを知った日から三か月を経過した後であるから(同法一四条一項)、いずれも出訴期間を徒過しており、不適法である。

(三)  司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める訴え(前記原告の申立て一(一)3および三(一)3)は、行政庁に対し特定の行政行為をすることを求めるいわゆる義務づけ訴訟であって、不適法である。

三  本案前の主張に対する原告の答弁および反論

(一)  被告委員会の本案前の主張(一)は争う。司法試験第二次試験の合否の判定がいわゆる確認行為たる性質を有する行政処分であり、したがって覊束裁量行為であることは請求原因において述べたとおりであるが、覊束裁量行為の有効・無効の判断は法律上の争訟であって、当然に裁判になじむものである。

(二)  被告委員会の本案前の主張(二)のうち、昭和四八年度の司法試験第二次試験短答式試験の合格者の発表が同年五月二九日に行なわれ、原告は遅くとも同年六月中にはその発表の事実を知ったことは認める。

四  請求原因に対する被告らの答弁および主張

請求原因(一)の事実は認める。もっとも、原告は昭和四三年度および昭和四五年度においては短答式試験に合格したが論文式試験に不合格となり、昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度においてはいずれも短答式試験に不合格となったものである。請求原因(二)のうち、司法試験第二次試験が被告国と受験者との間の準委任契約類似の有償双務債権契約たる性質をももつ旨の主張は争う。請求原因(三)の事実は否認する。

五  被告らの主張に対する原告の答弁

原告が昭和四三年度および昭和四五年度において短答式試験に合格したが論文式試験に不合格となり、昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度においてはいずれも短答式試験に不合格となったことは認める。

第三立証≪省略≫

理由

一  訴えの適否

(一)  昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の合否の判定の取消しないし(予備的に)無効確認を求める訴えについて

1  司法試験第二次試験は、裁判官、検察官または弁護士となろうとする者に必要な学識およびその応用能力を有するかどうかを判定することをもってその目的とするものである(司法試験法五条一項)。したがって、司法試験第二次試験における合否(合格・不合格)の判定は、本来右のような学識・応用能力の有無の判断を内容とする行為であって、その性質上、試験実施機関の最終判断に委ねられるべき事項であり、裁判所が具体的に法令を適用してその判断の当否を審査しこれに関する紛争を解決するのに親しまない事項である。

しかしながら、右合否の判定にあたり、たとえば原告主張のように年令、性別、社会的身分、出身大学、出身地、受験回数等によって差別が行なわれたとするならば、それは司法試験第二次試験の目的である前記のような学識・応用能力の有無とは直接関係のない事柄によって合否の判定が左右されたということになり(いわゆる他事考慮)、そのような他事考慮がなされたかどうか、なされたとしてその他事考慮が許されるものであるかどうかの問題は、試験実施機関の最終判断に委ねる必要のない、裁判所による審査に親しむ事項であると解するのが相当である。

これを要するに、司法試験第二次試験における合否の判定も法律上の争訟にあたるが、ただ前記のような学識・応用能力の有無の判断は試験実施機関の最終判断に委ねられ、その判断の当否そのものは裁判所による審査に親しまない事項であり(したがって、右判断の当否そのものは試験実施機関の完全な裁量事項ということになる。)、それ以外の他事考慮(年令等による差別)の存否・適否については裁判所の審査権が及ぶと解すべきである。

したがって、被告委員会の本案前の主張(一)は理由がない。

2  ところで、原告は昭和四三年度ないし昭和四八年度の司法試験第二次試験における合否の判定の取消しないし無効確認を求めている。

司法試験第二次試験は短答式および論文式による筆記ならびに口述の方法によって行なわれ(司法試験法五条一項)、短答式試験、論文式試験、口述試験についてそれぞれ合格者の発表が官報にその氏名を公告することによって行なわれる(もっとも、口述試験の合格者は司法試験第二次試験の合格者として発表される。司法試験管理委員会の会議等に関する規則四(五))。したがって、司法試験第二次試験における合否の判定といっても(原告の主張する司法試験第二次試験の合否の判定が、短答式試験および論文式試験における合否の判定を除いたところの口述試験の合否の判定=司法試験第二次試験の合否の判定のみを意味しているものではなく、短答式試験および論文式試験の合否の判定をも含めたものであることは弁論の全趣旨によって明らかである。)、合否の判定という一個の行政処分があるわけではなく、短答式試験、論文式試験および口述試験についてそれぞれ各試験の受験者個々人に対しあるいは合格の判定(合格処分)、あるいは不合格の判定(不合格処分)という複数の行政処分がなされるものと解すべきである(なお、不合格者の発表という行為はなされないが、合格者の発表がなされることによって、その反面合格者として発表されなかった受験者については不合格者としての発表((不合格処分))がなされているものと解するのが相当である。)。

そして、司法試験第二次試験の短答式試験、論文式試験および口述試験についてそれぞれ合格者の定員というものが法定されていないことは明らかであり、また、試験実施の運用上も明確に定員というものが設けられていないことは≪証拠省略≫ならびに経験則によって認められるところであるから、右各試験の受験者同士は互いに競争者とはいえても、いわゆる競願者にはあたらないと解すべきである。したがって、ある受験者は他の受験者に対する合格の判定(合格処分)あるいは不合格の判定(不合格処分)の取消しないし無効確認を求める法律上の利益を有しないと解するのが相当である。

昭和四三年度ないし昭和四八年度の司法試験第二次試験(短答式試験、論文式試験および口述試験)における合否の判定の取消しないし(予備的に)無効確認を求める原告の訴えのうち、原告以外の受験者に関する部分(合格処分と不合格処分の両者がある。)は、右の理由から原告にはこれを求める法律上の利益がなく、不適法というべきである。

次に、原告が昭和四三年度および昭和四五年度においてはいずれも短答式試験に合格したが論文式試験に不合格となり、昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度においてはいずれも短答式試験に不合格となったことは当事者間に争いがない。これを一覧表にすれば別表記載のとおりとなる。してみれば、昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度の論文式試験および昭和四三年度ないし昭和四八年度の口述試験を原告はいずれも受験していないのであるから(論文式試験は短答式試験に合格した者について行なわれ、口述試験は筆記試験((すなわち、短答式試験および論文式試験))に合格した者について行なわれる。司法試験法六条二、三項)、これらの試験については原告に対する合否の判定はなされておらず、したがって、原告の訴えのうち、右各試験(昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度の各論文式試験および昭和四三年度ないし昭和四八年度の各口述試験)における原告に対する合否の取消しないし(予備的に)無効確認を求める部分は、訴えの対象を欠く不適法なものというべきである。さらに、また、昭和四三年度および昭和四五年度の各短答式試験においては原告は合格の判定(合格処分)を受けているのであるから、その取消しないし(予備的に)無効確認を求める法律上の利益も欠くというべく、この部分も不適法である。

3  そこで、昭和四三年度および昭和四五年度の各論文式試験ならびに昭和四四年度および昭和四六年度ないし昭和四八年度の各短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の取消しを求める訴えの適否につきさらに検討を進めるに、昭和四八年度の短答式試験の合格者の発表が同年五月二九日に行なわれ、原告が右発表の事実(したがって、原告に対する不合格処分がなされた事実)を遅くとも同年六月中には知ったものであることは当事者間に争いがなく、また、昭和四三年度の司法試験第二次試験の合格者の発表が同年九月三〇日に、昭和四四年度のそれが同年九月三〇日に、昭和四五年度のそれが同年九月三〇日に、昭和四六年度のそれが同年一〇月一日にそれぞれ行なわれ、原告は遅くともそれぞれの数日後には右発表の事実(したがって、原告に対する不合格処分がなされた事実)を知ったものであることについて原告は明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。そして、昭和四三年度および昭和四五年度の各論文式試験ならびに昭和四四年度および昭和四六年度の各短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の取消しを求める訴えが昭和四七年八月二五日に提起されたことならびに昭和四八年度の短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の取消しを求める訴えが同年一二月二七日に提起されたものであることはいずれも本件記録上明らかである。してみれば、昭和四三年度および昭和四五年度の各論文式試験ならびに昭和四四年度の短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の取消しを求める訴えは、いずれも処分の日から一年を経過した後に提起されたものであり(行政事件訴訟法一四条三項)、また、昭和四六年度および昭和四八年度の各短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の取消しを求める訴えは、いずれも処分のあったことを知った日から三か月を経過した後に提起されたものであるから(同条一項)、いずれも出訴期間経過後の訴えであって、不適法である。

4  以上1ないし3において述べたところを要約すれば、昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の合否の判定の取消しを求める訴えのうち、適法な部分は昭和四七年度の短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の取消しを求める部分のみということになり、予備的に右各司法試験第二次試験の合否の判定の無効確認を求める訴えについては、昭和四三年度および昭和四五年度の各論文式試験ならびに昭和四四年度および昭和四六年度ないし昭和四八年度の各短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の無効確認を求める部分に限り適法ということになり、その余の部分はいずれも不適法ということになる(なお、予備的請求については、本来、主位的請求が理由がない旨を判断した後に判断を示すべきであるが、ここでは便宜主位的請求とともに予備的請求の適否についても判断を示した。)。

(二)  被告委員会に対し昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める訴えについて

被告委員会に対し昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める訴えのうち、原告以外の受験者に対する適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める部分、原告が受験しなかった昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度の各論文式試験および昭和四三年度ないし昭和四八年度の各口述試験における原告に対する適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める部分、原告が合格の判定を受けた昭和四三年度および昭和四五年度の各短答式試験における原告に対する適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める部分については、前記(一)2で述べたのと同様の理由でいずれも原告にこれを求める法律上の利益はないと解するのが相当である。また、昭和四三年度および昭和四五年度における各論文式試験、昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度における各短答式試験において被告委員会は原告に対しすでに不合格の判定(不合格処分)を行なったことは前述したとおりであるから、これに不服がある場合にはその取消しないし無効確認を求める訴えを提起すべきであり(現に原告は本訴においてこれを求めている。)、それとともに合否の判定という作為を被告委員会に対し求めることは、訴えの利益を欠き、許されないと解するのが相当である。

してみれば、被告委員会に対し昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める訴えは、すべて不適法である。

二  本案の理由の有無

(一)  被告委員会に対する請求(昭和四七年度短答式試験における原告に対する不合格の判定((不合格処分))の取消請求、昭和四三年度および昭和四五年度各論文式試験ならびに昭和四四年度および昭和四六年度ないし昭和四八年度各短答式試験における原告に対する不合格の判定((不合格処分))の無効確認請求)について

原告が昭和四三年度および昭和四五年度の各論文式試験において不合格の判定(不合格処分)を受け、昭和四四年度、昭和四六年度ないし昭和四八年度の各短答式試験において不合格の判定(不合格処分)を受けたものであることは前述したとおりである。

そこで、被告委員会が右各不合格の判定(不合格処分)をするにあたり、年令、性別、社会的身分、出身大学、出身地、受験回数等によって差別をしたかどうかについて判断するに、≪証拠省略≫および経験則を合わせ考えれば、司法試験第二次試験の短答式試験および論文式試験における合否の判定はもっぱら裁判官、検察官または弁護士となろうとする者に必要な学識およびその応用能力を有するかどうかという観点からのみ行なわれていること、すなわち、短答式試験の答案の採点はI・B・Mのコンピューターによって機械的に行なわれ、また、論文式試験の答案の採点は司法試験考査委員によって行なわれるが、その採点にあたっては答案に受験者の氏名、受験地、受験番号等受験者を特定しうる事項はなんら記載されておらず、たんに審査番号のみが付されており、その審査番号は被告委員会の事務局でこれを付し、どの審査番号がどの受験者のものであるかということは司法試験考査委員には知らされていないのであって、短答式試験の答案の採点においても、また、論文式試験の答案の採点においても、年令、性別、社会的身分、出身大学、出身地、受験回数等により差別をする余地はまったくなく、さらに、合否の判定は得点数によって行なわれており、これまた年令等による差別の余地はまったくないことが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

してみれば、昭和四三年度および昭和四五年度の各論文式試験ならびに昭和四四年度および昭和四六年度ないし昭和四八年度の各短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)には、原告主張のような違法・無効の事由はなく、いずれも適法・有効になされたものというべきであるから(学識・応用能力の有無の判断そのものについては被告委員会の最終判断に委ねられるべく、その点については裁判所の審査権が及ばないこと前述のとおりであるから、結局、右判断は適法・有効になされたものと解すべきである。)、右各不合格の判定(不合格処分)の取消請求(昭和四七年度)ないし無効確認請求(昭和四三年度ないし昭和四八年度)は、いずれも理由がない。

(二)  被告国に対する請求について

1  損害賠償請求について

司法試験第二次試験の短答式試験および論文式試験における合否の判定にあたって年令等により差別をする余地がまつたくないことは前述したとおりであるから、その差別がなされたことを前提とする原告の被告国に対する損害賠償の請求は(国家賠償法一条にもとづくものであれ、民法四一五条にもとづくものであれ、同法七〇九条にもとづくものであれ)、その余の点を判断するまでもなく、すべて理由がない(なお、原告は口述試験も受験したことはないのであるから、その合否の判定によって損害を受ける余地はないというべきである。)。

2  司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否を行なうことを求める請求について

原告は、司法試験第二次試験の性質につき、被告国と受験者との間の準委任契約類似の有償双務債権契約たる性質をももつ旨主張する。しかしながら、司法試験第二次試験は、裁判官、検察官または弁護士となろうとする者に必要な学識およびその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験であって(司法試験法一条一項、五条一項)、行政庁たる被告委員会がこれを管理するものである(同法一二条)。それは、被告国が私人と同様の立場に立って受験者と契約を結び、お互いに債権を有しかつ債務を負うに至るといったものではなく、被告委員会が受験者より優越した立場に立って受験者の学識・応用能力の有無を判定するといった性質のものである。司法試験第二次試験が準委任契約類似の有償双務債権契約たる性質をももつ旨の原告の主張は、独自の見解であって採用することができない。

してみれば、右主張を前提とする原告の被告国に対する適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

三  むすび

以上のとおりであるから、被告委員会がした昭和四三年度ないし昭和四八年度の各司法試験第二次試験の合否の判定の取消しを求める訴えのうち、昭和四七年度短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の取消しを求める部分の請求を棄却し、その余の部分の訴えを却下し、予備的に右各司法試験第二次試験の合否の判定の無効確認を求める訴えのうち、昭和四三年度および昭和四五年度の各論文式試験ならびに昭和四四年度および昭和四六年度ないし昭和四八年度の各短答式試験における原告に対する不合格の判定(不合格処分)の無効確認を求める部分の請求を棄却し、その余の部分の訴えを却下し、被告委員会に対し昭和四三年度ないし昭和四八年度の司法試験第二次試験の適法かつ有効な合否の判定を行なうことを求める訴えを却下し、被告国に対する請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 上田豊三 裁判官篠原勝美は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 高津環)

〈以下省略〉

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